- 125 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:05/02/13 10:36:52 ID:OOscnUVU0
- 先日、地元の渓流釣の解禁を受けて山奥へと岩魚を狙いに出掛けた。
一晩は山の中で過ごす積もりで、それなりの装備を持って昼から出掛け、
その日の夕方から釣り出した。
自分の秘密の場所なので他に釣り人も居らず、天子を五匹、岩魚を四匹釣って
川原の岩陰にツェルトを張って、飯を炊いて魚を焼き、
骨酒を作って飲んだりしながら過ごしていたら、
木々の間から人の話し声が聞こえてきた。
- 126 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:05/02/13 10:39:11 ID:OOscnUVU0
- もう辺りは真っ暗だったので、「こんな時間に上ってくるなんて珍しいな」と思い
話し声がする方を見ていると、男と女がこちらに向かってくるのが見えた。
近づいてくる彼らを見ていたら、明らかに普通の人間じゃない。
男は髭だらけの顔で、目が深く落ち窪んでいる。まるで原人のような風貌だ。
女は切れ長な目のキツそうな美人だが、まだ幼さを残している。
そして、何よりも奇天烈なのが服装だ。
男は襤褸切れのような布を何枚も巻き付けているだけ。
女は薄桃色の着物なのだが、だらしなく肌蹴ている。
- 127 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:05/02/13 10:41:02 ID:OOscnUVU0
- その場所は相当な山奥で、林道の執着点から川沿いに何キロも登ってきた所。
雪もかなり深く、この時期に入り込むのは俺のような酔狂な釣り人くらいのモノだ。
俺はあまりの異様な事態に、呆然と彼らが近づいてくるのを見ていた。
彼らは俺のいる川原の対岸に降りてくると、男の方が「今晩は。」と挨拶をしてきた。
異様な風体からは想像も付かない普通の挨拶に、
「アア、コンバンハ」とすっ呆けた声で応じてしまう俺。
彼は「寒いですなあ。火に当たらせてもらえんですか」と普通の声で言う。
俺は「ああ、どうぞ・・・。」と答え、彼らが川を渡ってくるのを呆然と見ていた。
男は女を抱き抱え、3メートルほどの川を一飛びにこちらへ渡り、俺の対面に座った。
すると、女が男から降りていきなり俺の膝に乗ってきた。
俺は驚いたが、男は何も言わないし、もういったい何が起こっているのか
理解の範疇を越え過ぎていて訳が分からず一言も発せられなかった。
- 128 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:05/02/13 10:42:34 ID:OOscnUVU0
- 彼女は俺の膝の上で火に当たりながら、俺の手を握って来た。
女は意外なほど軽く、手は冷たく、体は冷え切っていた。
黒々とした髪からは若葉のような香りがし、銀細工のような飾りが一つ有った。
男が何処から出したか竹筒の水筒を口に運び、何かを飲んでいる。
俺もまた、先程作った岩魚の骨酒を飲もうかと片手を女の手から離して茶碗を掴んだ。
酒を一気に飲み干し、中の岩魚をもう一度火にくべて焼き始めると
女の腹がぐうと鳴るのが聞こえた。
「腹が空いてるのかい?」と聞くとこくんと頷いたので、先程釣った魚の残りを焼き、
炊いておいた飯を出して盛り付け、沸かした湯で出汁入り味噌を溶いて味噌汁を作り、
女に出してやった。男が「スマンですなあ。」と言うので「あなたもどうぞ」と男にも渡す。
二人はがっつく事もなく、むしゃむしゃと飯を食っている。
- 129 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:05/02/13 10:45:05 ID:OOscnUVU0
- その光景を見ていたら思考回路が戻ってきたので、俺は男に「貴方達は何者ですか?」
とストレートに尋ねてみた。
男は、「ワシはごろう、其れ(女)はきりょう。これから奥羽のおじきの所へ向かう所ですわ。」と答える。
「ハアぁ・・・。」俺は聞きたいのはそんな事じゃないんだが、と思ったが言えなかった。
飯も食い終わり、しばらくすると女は軽い寝息を立てて寝入ってしまった。
男も雪の上にゴロンと横になり、また竹水筒を口に運んでいる。
俺もかなり酒を飲んで眠くなってきたので、
マットの上で女を抱いたままシュラフに潜り込んで寝てしまった。
- 130 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:05/02/13 10:46:20 ID:OOscnUVU0
- 翌朝、寒さで目が覚めると俺は一人でツェルトの中でシュラフに包っていた。
ハッと飛び起きジッパーを空け外を見ると誰もいない。
「なんだ、夢だったのか・・・?」と思いつつツェルトから這い出したら、
昨夜座っていたマットの上に銀細工の髪飾りと竹水筒が二つ置いてある。
髪飾りを手に取り「夢じゃなかったのか・・・?」と思いつつ竹水筒を開け、
一口含んでみると、爽やかな笹の香りのする酒だった。 - 先日、地元の渓流釣の解禁を受けて山奥へと岩魚を狙いに出掛けた。
∧∧∧山にまつわる怖い話Part20∧∧∧
- 306 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:18:46 ID:7hTUG8P90
- この二ヶ月、仕事でインドへ出張していて久しぶりに日本へ帰ってきた。
インドは非常に好きな国だが、やはり日本が落ち着く。
俺はさすがに疲れた精神と肉体を癒すため、
出張中に溜まった代休をフルに」使ってとある高山の奥深くへ釣行した。
インドでもいくつかの山に登ったり、カシミール地方の高山地帯なんかにも
行ったが(ゲリラに戦々恐々だったが)、やはり日本の山は良い。
自分自身の心の中に帰れたような気さえする。
入山して二日目、深い淵で五十センチ越えの大岩魚を初め、
尺上のモノを中心に7本ほど上げてから
淵のほとりでツェルトを張り、飯を炊き味噌汁を作り岩魚を捌いて刺身にし、
男山で骨酒を拵えてちびちび飲っていると辺りが暗くなり始めて良い感じになって来た。
夜も更け始め、酔いがかなり回り始めた頃、淵の対岸に白いモノが現れた。
それが、白い着物を着た女だと認識するのに何秒かかったろうか。
その女は、淵を廻りながら俺に向かって歩いてくる。こんな山奥に何故そんなモノが?
酔いは一気に覚め、ハーケンを探して荷物に手を伸ばした。
- 307 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:19:19 ID:7hTUG8P90
- 今まで雲に隠れていた月が顔を出し、それの顔が見えた。
瞬間、その女の顔が記憶を過る。
長く艶やかな黒髪、薄い眉、切れ長の目、赤く小さな唇、尖った顎。
ぞくっとする程の整った大人の顔立ちと、少女のあどけなさを併せ持っている。
「お前は…」思わず声が出てしまったとき、彼女の名を想い出した。
「おりょう…か?」
今年の渓流釣り解禁直後に山に篭った時、飯を振舞ってあげた礼に、
笹の香りのする美酒と美しい髪飾りを置いて姿を消した不可思議な男女。
男をごろう、女はおりょうと言った。
女は嬉しそうに微笑むと、小走りに俺の傍へやって来た。
前回会ったときと同じ様に、言葉は全く発さない。
立ち上がりかけた俺の首筋に噛付くように女は抱き付いて来た。
俺は女を抱き止めながら後ろ向きに転がってしまう。
彼女の髪からは、以前に嗅いだ若葉の香りではなく、甘やかな華の香りがした。
おりょうの軽い身体を抱きとめたまま天を仰いだ俺の目に、
俺の顔を覗く髭だらけの顔が映った。
「久しぶりですなあ。」
- 308 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:20:00 ID:7hTUG8P90
- 場違いなのほほんとした声が響く。
「ごろうさん、か…?」
俺が呟く様に声を発すると
「いやあ、覚えていてくれましたか。嬉しいですなあ」と彼が返す。
俺はおりょうに抱きつかれたまま身を起こした。
おりょうは俺の膝に乗ったまま俺の顔をじっと見つめている。
ふ、と彼女と目を合わせたら、
その漆黒の瞳の中に吸い込まれそうな感覚に包まれた。
いつの間にか、ごろうが俺の対面に座って竹水筒を差し出している。
俺は自然にそれを受け取り、口に含んだ。笹の爽やかな香りが口に広がる。
俺は、手元にあった骨酒を彼に渡す。彼も旨そうに骨酒を飲み干した。
そのまま一時ほど、何も喋らずにごろうと俺は岩魚をつまみに酒を酌み交わし、
おりょうは飯と焼いた岩魚を俺の膝の上でもぐもぐと食べていた。
ごろうからもらった一つ目の竹水筒が空になったとき、
「あんた、山が好きかね。」とごろうが俺に新しい竹水筒を渡しながら訊いて来た。
俺はごろうの竹コップに一升瓶から男山を注ぎながら、
「ああ、大好きですね。」と答えた。
「そうかね…」ごろうは呟くように言うと、また黙ってしまった。
- 309 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:20:35 ID:7hTUG8P90
- 俺も聞きたいことが幾つも出てくるのだが、聞くことが出来ない。
おりょうは飯を食い終わり、胸元から取り出した小さな竹筒を口に含んでいる。
その竹筒から、桑の実のような甘い香りが漂ってきた。
「あんた、女房は居るのかね?」ごろうが唐突に聞いてきた。
おりょうがビクッと肉体を強張らせる感覚が伝わってきた。
「いや、居ない。独りもんですよ。」
あふう、とおりょうの唇から嘆息が出て、強張った肉体が弛緩する。
おりょうが俺の顔を見つめている視線を感じるが、
何故か怖くて彼女の顔を見れなかった。
「おりょうは次の満月に奥羽のおじきの総領息子へ嫁ぐんですわ。」
おりょうが俺にギュッと抱き付きながら身体を強張らせる。
意外なほどにたっぷりとした量感を持つ胸を押し付けられて、
俺の心臓の脈も早まってしまった。
「それは…目出度い…のかな…?」
なんだか間抜けな答えを返してしまう俺。
- 310 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:21:37 ID:7hTUG8P90
- 「あんたはおりょうをどう想っとりますかな?」
「はああ!?」
あまりにも唐突な問いに思わず度肝を抜かれる俺。
おりょうの唇が俺の首筋に吸い付く感触を感じ、我に返った。
「可愛い…と思いますよ。」首筋を強く吸われ、そして舌が這う感触。
痺れる様な感覚がする。
「あんたは、街に帰りたいと思うかね?」
「俺…は、山が好きだ…けれど、街を捨てることは…出来ない…と思う…。痛っ!」
鋭い痛みが首筋に走った。「おりょう!」ごろうが一喝した。
ビクッと身体を震わせて俺の首筋から唇を離すおりょう。
彼女の顔を見ると、唇から血を流している。
いや、その血は俺の首筋から出たものだった。
「……」おりょうが俺の目を見詰め、俺の目もおりょうの瞳に吸い付けられていた。
唐突におりょうの瞳に涙が溢れ、俺の唇におりょうの唇が重なった。
おりょうの舌が俺の口の中に入ってくる。甘い林檎のような香りと、
鉄錆のような俺の血の味が混ざっていた。
どれほどそのままで居ただろうか。おりょうは俺から唇を離すと、
もう一度ぎゅう、と抱き付いてきた。
- 311 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:22:20 ID:7hTUG8P90
- そして、俺の首筋の傷を丹念に舐め、つ、と立ち上がった。
「さよなら…。」鈴の音が鳴るような声がおりょうの口から漏れる。
呆然とする俺の目の前でごろうも立ち上がった。
「あんたなら、おりょうの良人に相応しいと思ったが…やはり難しいかのう。」
「ごろうさん…俺は…」俺は何を言いたいのだろうか、いや、どうしたいのだろうか。
その時は全く解らなかった。
「あんたが山に来続けるならば、またいつか逢う機会もあるじゃろう。達者でな」
俺は、二人が山の闇の中へ消えていくのを立ち上がることも出来ずに見送るだけだった。
淵の向こう側で、おりょうが一度だけこっちを振り返るのが見えた。
翌朝、俺はツェルトの中で目が覚めた。
いつ、どうやって寝たのかも覚えていない。
「昨夜の事は夢…なのか?」
独り言を呟きながら外に這い出し、淵の水に映る自分を見る。
首筋に、噛み千切られたような傷跡が残っていた。
その傷跡を見付けた途端、涙が滝のように溢れだした。
なぜか胸が締め付けられるように痛み、俺は独り咽び泣いた。
- 312 名前:本当にあった怖い名無し [sage]:2005/08/02(火) 01:37:02 ID:7hTUG8P90
- ご無沙汰です。長い駄文失礼しました。
先週末に山の中で出会ったあの二人です。
前回と同じ、夢か現か解らない体験ですが、俺の喉元には傷がのこっています。
また、あの時に彼らと一緒に行っていたらどうなっていたのか・・・?
ちょっと惜しかったような気もします。
また、女の名前は「きりょう」なのですが、今回書き込んでいたらすべて「おりょう」になっています。
俺は「きりょう」と書き込んでいたはずなのに.・・・?何故だろう?
文中に有るとおり、しばらく仕事でインドに行っていました。
スレに追いつくのにさすがに時間かかりました
雷鳥さんはお忙しいのでしょうか?また宝石のような山の話を聞かせて欲しいものです。
N・Wさんのお話は非常に情緒溢れていて良いですね。
自分は梶さんのファンになりました(笑)。
全裸隊さんの淡々とした調子も冴えていて楽しみです。
それでは、またROMに戻ります。
新たな山の話を楽しみにしています。
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part27∧∧
- 663 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/07/30(日) 14:51:30 ID:5cOZQyO50
- 先週から奥羽山脈の駒ケ岳〜八幡平を三人パーティで縦走してきた。 まだまだ雪も多く残り、素晴らしい行程だったのだが、 途中俺が雪庇を踏み抜いて雪の中を相当滑落した。 しかし止まるまで地面がずっと雪だったのと、最後にぶち当たったのも雪の塊だったのと、 俺は昔甲斐駒ケ岳で滑落して酷い目に遭っているので脊髄パッドやプロテクターの入った バイク用の薄手のジャケットを中に着込んでいたので、幸いにもちょっとした擦り傷と打撲で済んだ。
しかし、仲間と離れてしまったのでとりあえず一人で森の中を抜けようと 沢沿いを歩き出したら対岸から「大丈夫ですか?」といきなり声を掛けられた。 ビックリしてそちらを見ると、青いジャケットの上に毛皮羽織った男と白い着物を着た女が居た。 男はともかく、女の格好にポカーン(゜д゜)として見ていると、もう一度「大丈夫ですか?」 と聞かれたので、「ああ、大丈夫です。見てましたか?」と返事をした。 「ええ、貴方が滑り落ちてくるのを女房が見つけましてね、 この辺に滑りつくんじゃないかと思って来たのですが...大丈夫のようですね。大したものだ」 「ええ、ありがとうございます。貴方たちも縦走ですか?」「いや、俺たちは魚を獲りに来ただけです。それじゃあ」 と二人は沢を上って行ってしまった。
その後、なんとか連れと合流し、奇妙な夫婦に会った話をしたら「それってサンカじゃないのか?」 「サンカって?」「奥山の中に住んでいる人々さ。通常は俗世間とは接触しないっていう」 「そんなの伝説か与太話だろう。だって普通の人間だった・・・ぜ?」と言いかけて思い出した。 男はベテラン登山家風だったが、着物着た女がなんでこんな深山に? その夜は仲間と山の怪談話や伝説を語りながら更けていった。
今考えると雪塊に突っ込んで頭打って、そんなモノが見えたのではないかと思うが、 実に不思議な体験だった。また、秋口に行って見るかな。
- 667 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/07/30(日) 16:14:03 ID:bC7U2kjs0
- >>663 雪女とその被害にあった男性だな
- 668 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/07/30(日) 17:03:22 ID:dPDp3nXX0
- >>663 林道さん乙! 山中で着物の女性って・・・こわっっ
- 669 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/07/30(日) 17:36:34 ID:WNCoFUa40
- >>667 > 雪女とその被害にあった男性だな
雪女を「嫁さんにした」男性じゃないか?(w まぁ、サンカに婿入りでもそれはそれで(w
- 676 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/07/31(月) 12:40:52 ID:6IgPQt4CO
- >>663の話って、Part21の山の二人のごろうさんとおりょうさんじゃね? 奥羽に嫁ぐって話だったし。
- 684 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/08/01(火) 00:27:45 ID:VIvgMlw80
- >>676 まとめサイトで山の二人見てきた。ついでに続きも見つけて読んだ。 ゴローさんは今回の男とは違うンじゃないかな?きりょうさん(おりょうさん?)の旦那じゃなかったし。 っていうか、この青いジャケットに毛皮羽織った男、もしかして「山の二人」書いた人本人じゃね? きりょうさんを忘れられなくて山に入ってしまったんじゃあ・・・? それとも、きりょうさんが嫁いだ奥羽の叔父貴の総領息子か? なんか、何年も前のレスから不思議と繋がってるような希ガス... このスレ自体が、山に繋がってるのかもな。
- 692 :本当にあった怖い名無し [sage] :2006/08/01(火) 13:17:25 ID:VPvNOlFS0
- >>684 奥羽の叔父貴の総領息子は俗世好きとか・・>青いジャケットに毛皮羽織った男 それとも書いた本人? はたまた、きりょうさんたちと同族? >>663の後日に期待
つか、一個目の山の二人がどうしても見つかんなくて3回くらい探したよ>< なんで見落としたのか疑問に思うくらいふつーにあったしorz
∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part45∧∧
二週間ちょいの日程で休みを取り、記憶の中のあの場所へと赴く。
途中で何泊かしながら数年ぶりに辿り着いたその川の辺は、それほど大きく変わる事も無く
静かな風情を晒しており、俺は僅かな歓びとひり付く様な痛みを覚えた。
しとしとと降り注ぐ雨に打たれながら手早くテントを張り、 前室の中で小さめに火を起こして飯を炊き付けてから竹竿を組み立て釣りを始める。
万が一の時の為にテントから離れ過ぎない様に釣っていたが スレていない魚達は次々と針に掛かってくれ、
尺上の大物を始め良形の岩魚を三十分で十匹ほど釣り上げて 手早く捌き太目の枝に刺してから白い泡を噴いている飯盒を退かし、
粗塩をたっぷりと振って岩魚を焼き始めた。
ケトルに入ったスコッチをチビチビと飲り、少し酔ってきた俺は瞳を閉じ、耳を澄ます。
静かな山中に、パチパチと燃える流木の弾ける音と サラサラと流れる水の音、そして蛙の合唱が響いていたが、
ふ、と蛙の合唱が止んだ。
瞬間、俺の心臓がドクン、と大きく鳴った。
己の身が震えるのを自覚しつつ目を開けると、視界の向こう、川の対岸に白いモノが揺れている。
俺は早鐘の様に脈打つ心臓を宥めながら、頭は全く動かさず 視線と焦点だけを対岸に揺れる白いモノへと向けた。
俺の眼に、薄暗闇の中に鮮やかに浮かぶ白と桃の着物を着た一人の女と、
その後ろに立つ、髯に埋った顔を持つ逞しげな男の姿が飛び込んでくる。
俺がのろのろと立ち上がるのを見て、女が妖艶な、だが微かに無邪気な笑みを浮かべた。 と、男が女を右手に抱え、一足飛びに川を越えて俺の目の前にやって来た。
まるで羆の様な外見に似合わぬのほほんとした声で言いながら、男が髯だらけの顔をにかっと綻ばせる。
「……そう、ですね」
俺は治まらぬ鼓動を持て余しながら、平静を装って男に応えた。
と、俺の鼻に甘やかな桃の様な香りが広がり、右手に柔らかく冷たい感触が広がる。
視線を落とすと、俺の肩に顎を載せる様にした女が、両手で俺の右手を握り締めていた。 俺は二人をテントの前室に招き入れ、シートの上に胡坐をかくと女が当然の様に膝の上に座る。
男は地面の上にどかっと座り、腰に付けていた竹筒の栓を開け、俺に差し出した。
俺も、取り出したマグにスコッチを溢れるほどに注ぎ、男に手渡す。
「ほう、良い香りですなあ。洋酒は久し振りじゃ」 そう言いながらグッと飲み干す男に習う様に、俺も爽やかな竹の香りのする酒をぐい、と口に含んだ。
どれほどの間、男と酒を酌み交わしていただろうか。
強かに酔った俺は、膝の上で俺を見詰めている女に視線を向けた。
「……」
女も少しだけ、俺の口から酒を飲んでいたので頬が桃色に染まり、 漆黒の大きな瞳が酔いと、酔い以外の何かで潤んでいる。
その艶っぽさに、腹の底から湧いてくるマグマの如き熱さを覚え鼓動が速くなってしまう。
と、女は俺の腰に手を廻し、豊かな乳房を押し付ける様にして抱き付いてきた。
男の声に我に返った俺が顔を上げると、男は困った様な顔で苦笑している。
「結局、旦那とは一度もまぐわいもせずに終わってしまったんですわ」
「……はあ……」
俺はなんと応えて良いか解らず、曖昧に反した。
「わしはちと、用を足してくるんできりょうを頼みます」 と、男は突然立ち上がりそう言うと、全く酔いなど見せずにひょい、と対岸へ飛び移る。
「え……?頼む、って……?」
俺が呆けた声を上げるの聞いて、
「朝に迎戻ります」
男は振り返りもせずに応え、闇の中に融けて行ってしまった。
翌朝、俺が目を覚ますと一緒に眠った筈のきりょうの姿は消えていた。
「夢……だった、のか?」
俺が少し痛む頭を数回振りながら上半身を起こし、時計を見ると午前五時前。
だが、昨夜のきりょうの熱い肌とぬめりはハッキリと覚えている……
「ん……痛ぅ」
と、右肩の辺りに小さな痛みを覚え、ふとみて見るとそこに小さな歯型が付いている。
”また、秋に、来て……”
俺の耳に、眠りに落ちる直前にきりょうが呟いた言葉が蘇った。
「秋、か……」
俺は投げ出すように体を横たえながら、小さく呟いた。
もちろん初書き込みで、今年の六月の出来事です。
後日談としてまとめサイトに掲載して頂いた出来事の後、
インドに駐在員として赴任し、今年の四月に戻って来ました。
そしてあの場所へと行った時の事を書いたのですが…・・・
インドに居る間はほとんど2ちゃんは見てなかったので
最近のココの荒れ模様を理解出来ていなかったようです。
自分の書き込みに反応して下さった方、ありがとうございました。
しばらく休養期間なので、山に篭って俗世から離れて来ます。
>>196さん、この話は上記の通り今年六月の出来事ですよ。
それでは皆さん、同じ様な文章で混乱させてしまって失礼しました。