539 名前:ランナー ◆s0OFdFGjbw [田園上]投稿日:03/05/28 19:28
私は夜に良くランニングをするのですが、
そのコースというのが田舎町なので田んぼと田んぼに挟まれた、
たまに野ウサギなんかも飛び出てくるような田舎道なんですね。
当然街灯も点々としか無く、道明かりは月影と近くの町の灯に頼るような、
そんな寂しい道なんですよ。
ある秋の日、
その日はまさに中秋の名月と言うべき綺麗な月に恵まれて、
ほんとにまるで夜空に電気を付けたような明るさの中、
いつもより楽しい気分で走っていました。
当然頃は秋だったので道の両端に広がる田んぼには
刈り終わった稲を円筒型に組んで干してあるんですよ。
でそんな景色の中を走ってたんです。
でも、その日に限って何か様子が違うんです。

540 名前:ランナー ◆s0OFdFGjbw [田園中]投稿日:03/05/28 19:29
空気が違うと言うか雰囲気が違うのか…。
何が違うのかなぁなんて考えてたその時。
「はぁぁ…」
と大きな溜め息が聞こえたんです。
おかしいです。
自分一人しか走ってない道で溜め息など聞こえていいわけない。
「お?空耳」
わざとらしく心の中でつぶやき少し足を速めました。
しかしまたしばらくすると
「あぁーあ…」
「…そ」
「…なこと」
今度は鳥肌が立ちました。
自分一人しかいないその道で誰かと誰かが話している。
そんな事あっていいわけがない。
冷たい汗がだらだらと垂れ流しになりながら
かなり速く足を進めました。
何者が何処で何を話し合っているのだ
こんな月夜にこんな場所で。
だいいち自分は走っている。
同一の二人の会話などいつまでも聞こえていようがない。

541 名前:ランナー ◆s0OFdFGjbw [田園下]投稿日:03/05/28 19:30
そう思ったとき不意にふと田んぼの中に目をやりました。
そして次の瞬間、
もう殆ど全速力で半泣きになりながら走りました。
その目線の先に決して見てはならない光景があったからです。
私がそれまで稲を重ねて作った円筒だと思っていた物が
全ていつの間にか装束を着た大男になっていたのです。
名月を愛でながら話し込む大男達。
私は絶対に気付かれてはならない。
恐怖に足を捕られながらも近くの町まで全速力で走りました。
そして友人の家に駆け込み事情を説明して
車で家まで送って貰いました。
当然友達も家族も誰も信じてくれませんでしたが、
昔おばあちゃんが言ってた
「田ぁの神さん」
の話を思い出しました…。
次の朝、
農家の人が何事もなかったかのように
稲を組み直していました。


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